チメロサールについて

(2014/11/02 最終更新)

一部のワクチンには、ごく微量のチメロサールという水銀化合物が含まれています。

(1)「水銀」と聞いて、水俣病の原因となる「メチル水銀」と同等の毒性があるものと誤解されて過敏
になられる方もおられます。しかし、ワクチンに添加されているチメロサールは無視できるぐらい微量
であり、また体内に蓄積されない性質を持っているので、過剰に心配する必要はありません。2009年、
厚生労働省が新型インフルエンザ用のワクチンに添加されているチメロサールの安全性について
コメントを出しています。

集団接種用のワクチンは、数人分の量がバイアル(瓶)に入った状態で供給されます。1928年オース
トラリアで、一本のバイアルから何回も薬液を採るうちに薬液が細菌で汚染されてしまい、これを接種
した子どもが大勢亡くなるという痛ましい事故が起こりました。チメロサールは微量でも強い殺菌作用
があるため、1940年ごろからワクチンの保存剤(防腐剤)として添加されるようになり、その後60年以
上にもわたって世界各国で使われてきました。

(2)水銀原子と炭素原子が直接結合している化合物を有機水銀と呼びます。水俣病の原因となる
チル水銀は脳や神経系に移行しやすく、運動失調や感覚異常などの多様な中枢神経障害が現れま
す。胎児は大人よりも影響を受けやすく、妊娠中の母親がメチル水銀を摂取した場合、母親は無症状
であっても生まれた子どもに強い症状が出た事例も知られています。血中濃度の半減期は44~80 日
と推定されており、摂取後2か月でもまだ半分以上が体内に残ります。一度体内に取り込まれると長
期間残存することになります。

一方、チメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)は、体内で代謝されて約50%が「エチル
水銀」になります。エチル水銀の血中濃度半減期は1週間未満とされており、1か月で約1/30に2ヵ月
後は1/500以下となり、メチル水銀より6~10倍早く体内から排出されるとされています。

(3)エチル水銀の毒性は、局所の発赤や腫脹などの皮膚過敏症がみられるということ以外はあまり
分かっていません。2000年、水銀中毒の症状と自閉症の症状が類似しているため、自閉症の増加を
ワクチンによる水銀暴露と関連づけた報告が米国でありました。ここ十数年の間に乳幼児が接種す
べきワクチンの種類や本数が増え、また、より低い月齢で接種を受けるようになり、結果として予防接
種による水銀暴露が増加し自閉症が増えたという主張です。しかし、その後の多数の研究でチメロ
サールと自閉症の因果関係を示す決定的な証拠は認められず、2004年、IOM(米国科学アカデミー
の医学協議会)はチメロサールと自閉症の関係を正式に否定しました。WHO(世界保健機構)も「エ
チル水銀は半減期が短く暴露は比較的短時間であること、さらに体内に蓄積されるメチル水銀と違い
エチル水銀は腸管から盛んに排泄されるため、ワクチン中のチメロサールにさらされた小児、成人に
おける毒性を示す根拠はない」という見解を示しました。

チメロサールに含まれるエチル水銀は、メチル水銀と違って体内に蓄積しないこと、近年ほとんどの
ワクチンからチメロサールが除去された米国でいまだに自閉症が増加し続けていることなどからも、
自閉症や発達障害とワクチンとを関連付けることには無理があると思われます。

(4)人が微量のエチル水銀を摂取する場合の安全基準については、化学構造が近くより毒性の高い
メチル水銀の基準が流用されています。EPA(米国環境保護庁)は、一生の間、人の集団が毎日暴露
を受けても有害な影響のリスクがないと推定される用量参照用量)を0.1μg/kg体重/日、WHO(世界
保健機構)は0.22μg/kg体重/日としています。

2014年に国内で入手できるインフルエンザワクチンには、注射液1mlあたりチメロサールが0.004~
0.008mg(4~8μg)含まれています。チメロサールの約50%がエチル水銀に代謝されますので、1mlあ
たり2~4μgです。インフルエンザワクチンは、3歳未満の子どもには0.25ml、3歳以上では0.5mlを接種
しますので、3歳未満の場合は0.5~1μg、3歳以上の場合は1~2μgの量を接種することになります。
例えば体重10㎏の1歳の子どもで0.05~0.1μg/kg体重、体重20kgの6歳の子どもの場合でも0.05~0.1
μg/kg体重の量のエチル水銀が1回の予防接種で投与されることになります。つまり、一生の間に
わたって毎日インフルエンザワクチンを接種したとしても、エチル水銀よりも毒性の高いメチル水銀
の(もっとも厳しいEPAの)基準値以内であるということになります。

(5)チメロサールで摂取される水銀の量を過度に気にされる方もおられますが、実は魚介類にはエチル
水銀よりもはるかに毒性が強く蓄積性のあるメチル水銀が含まれていて、特に食物連鎖の上位にある
マグロ類、カジキ類に高い濃度で蓄積されます。農林水産省が発表している魚介類に含まれるメチル
水銀の量の中央値は、天然クロマグロで0.55mg/kg、メバチマグロは0.40mg/kg、キンメダイ0.58mg/kg、
メカジキ1.0mg/kgとなっています(平成19~22年度調査結果)。

握り寿司1貫に使われるネタの量を15gとして、それぞれ8.25μg、6μg、8.7μg、15μgのメチル水銀を
摂取することになります。インフルエンザワクチン1回接種量あたり最大2μgのエチル水銀ですので、握り
1貫食べただけで予防接種の3~7倍のメチル水銀を摂取していることになります。

「魚は怖いから食べてはいけない」というわけではありませんが、厚生労働省は「妊婦への魚介類の摂取
と水銀に関する注意事項 及びQ&A」を公表して妊婦に対して注意を呼びかけています。同ページには
「厚生労働省が実施している調査によれば、平均的な日本人の水銀摂取量は健康への影響が懸念され
るようなレベルではありません。特に水銀含有量の高い魚介類を偏って多量に食べることを避けて水銀
摂取量を減らしつつ、魚食のメリットを活かしていくことが望まれます」と記載されています。

WHOも前述の水銀摂取の安全基準量について、「この値は一般の人々に適用されるけれど、妊婦や
幼児については一般の人々より危険性が高いかもしれない」と注意を促しています。妊婦に対するチメ
ロサール含有ワクチンの接種についても、2009年、米国CDC(疾病予防管理センター)は安全性に問題は
ないとコメントを出しています。WHOはメチル水銀による影響を最も受けやすい胎児を守ることを考え
て、当面はチメロサールを可能な限り減量し、将来的には代替となる保存剤を開発し、これを防ぐことを
各国に向けて勧告しています。もっとも、エチル水銀の影響は不明なため、この勧告はさらなる安全性を
求めての対応だと思われます。

(6)ワクチンのより高い安全性を求め、日本においてもWHO、米国、欧州と同じくワクチンに添加さ
れるチメロサールをできるだけ除去、低減していく方向にあります。実際、2000年代以降の日本のワク
チンに含まれるチメロサールは、1990年代のワクチンの1/10程度になっています。現在でも一部のワク
チンにはチメロサールが含まれていますが、予防接種の安全性を確保するために必要であり、またワク
チンに含まれるエチル水銀は量的にも質的にも十分に安全と考えられます。そのため現時点では接種
による感染予防の利点がチメロサール毒性のリスクを上回ると考えられています。